東京家庭裁判所 事件番号不詳 判決
本籍 樺太豊原市西一条南六丁目十七番地
住所 東京都台東区浅草千束町二丁目二十二番地
旅館業
庵タカ 明治三十四年四月十七日生
主文
被告人を懲役八月に処する。
但し本裁判確定の日より二年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
一、犯罪事実
被告人は肩書住居地において、その夫庵直一と共に旅館「直一」を経営している者であるが、昭和二十八年九月八日頃女中として雇入れた十八才に満たない児童米○よ○子(昭和十二年三月十四日生)をして同年同月十日頃より同年十月末日頃までの間同旅館客室において不特定の客に売淫させ、その報酬中約六分相当額を収得し以て児童に淫行をさせたものである。
二、証拠については
(一) 証人米○よ○子の当公廷における証言
(二) 米○よ○子に対する青森市長作成の身上調査回答書
(三) 証人平○良○の当公廷における証言
(四) 被告人の当公廷における供述並びに同人に対する司法警察員及び検察官の各第一-二回供述調書の供述記載等を綜合してこれを認める。
およそ十八才未満の児童に対して心身ともに健全に育成されるように保護者を始め雇主その他現に児童を教育監護する者はあらゆる阻害行為より児童を保護しなければならないことは児童福祉法の原理であることは法の明定するところで従つて法にいわゆる「児童に淫行をさせる行為」とは淫行を強要し、又は勧奨する等積極的行為による場合は勿論、由来心身ともに未成熟で確固たる判断力乃至社会的抵抗力の極めて弱い十八才未満の児童をして淫行に至らしめることを有形無形に助成し、もしくは原因を支えるものと認められる一切の場合を含むと解すべく、被告人が普通旅館の名義の下に児童を雇入れて住込ませ客の要求に応じて売淫を斡旋し、その収入の約六分を収得して生活して居る事実を考えるとたとえ児童自らの意志が或程度加はつたとしても右法条に該当し、その刑責は免れ難いというべきである。被告人及び弁護人は被告人に対する司法警察官並びに検察官の供述調書の記載は一部真実性を有しない旨主張するも、右調書の中判示事実に照応する記載部分は被告人の当公廷における供述とも合致していることが認められるので右主張は当らないというべきである。又被告人は右米○よ○子が当時十八才未満(略十六才六ヶ月)であつたこと及び児童福祉法の存在を知らなかつたから同法を適用すべきものでない旨主張するのであるが、年令について戸籍照会または異動証明書等容易に確認し得る方法すら怠り他に年令確認のため努力した事跡が認められないのみならず、既に昭和二十三年制定公布された児童福祉法を知らなかつたとしてもそれだけで犯意や違法性を阻却する理由にならないから、右主張も亦採用出来ない。
更に刑の量定について案ずるに法が淫行をさせる行為を特に厳罰に処すべきものと定めたのは児童をして正常な夫婦関係以外において淫行せしめることはいわゆる健全育成を阻害すること極めて大なりとする法意に出たものと解すべきところ被告人は僅かに十六才台の児童米○よ○子を前借二万円で女中として雇入れたにかゝわらず、たとえ右米○の要望とはいえ(米○よ○子の証言によれば、証人平○良○に対する売淫は拒否したにかゝわらず被告人の再三の勧奨により遂に淫行に及んだことが認められる)雇入れの三日目頃より売淫せしめたばかりか右平○なる客よりあらかじめ定めた玉代より遥かに多額の報酬を要求してその六分を取得した事情を考えるとその罰責は実に重大である。
法律に照すと被告人の判示所為は児童福祉法第三十四条第一項第六号第六十条第一項に該当するから右所定刑の内懲役刑を選択しその刑期範囲内で被告人を懲役八月に処し、情状により刑の執行を猶予することを相当と認め、刑法第二十五条により二年間右刑の執行を猶予することゝし、訴訟費用の負担につき刑事訴訟法第百八十一条第一項を適用し、主文の通り判決する。
(裁判官)